法人の消費税申告|本則・簡易・2割特例の選び方

課税事業者になった法人の消費税申告には、本則課税・簡易課税・2割特例の3つの計算方式があります。申告期限は課税期間終了の翌日から2か月以内。基準期間の課税売上5,000万円以下なら簡易課税、インボイス登録で課税になった事業者は令和8年9月30日までの2割特例も選べます。どれが有利かの判断軸を一次ソースで整理します。

執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月3日

消費税の納税額は「計算方式の選択」で変わる

課税事業者になった法人には3つの計算方式があります。業種や課税仕入の多さで有利な方式が変わるため、申告期限の前に自社に合う方式を選ぶことが納税額に直結します。

  • 3つ 計算方式 本則課税・簡易課税・2割特例
  • 2か月以内 申告期限 課税期間終了の翌日から
  • 5,000万円 簡易課税の上限 基準期間の課税売上高(以下なら選択可)
  • 令和8年9月 2割特例の期限 インボイス登録者の経過措置(終盤)
法人の消費税申告における本則課税・簡易課税・2割特例の選び方を解説するアイキャッチ

結論:計算方式は3つ、自社の業種と仕入で選ぶ

この記事は、すでに消費税の課税事業者になった法人が、申告で「どの計算方式を選ぶか」を整理するものです。消費税を納める義務があるかどうか(免税か課税か)の判定や、法人化による2年免税・インボイスの判断は、法人化と消費税|2年免税とインボイスで扱っています。本記事はその次の段階、納める消費税の「計算方式の選択」に絞ります。

出典:消費税法・令和5年改正法附則51の2。令和8年度(2026年)時点。
計算方式計算の考え方主な対象
①本則課税(一般課税)預かった消費税 − 実際に払った消費税すべての課税事業者(原則)
②簡易課税売上の消費税 × みなし仕入率基準期間の課税売上5,000万円以下+事前届出
③2割特例売上の消費税 × 20%インボイス登録で課税になった事業者(期限あり)

どれが有利かは、業種と課税仕入(経費の支払い)の多さで変わります。設備投資が多い年は本則課税、仕入が少ない業種は簡易課税、インボイス登録で課税になったばかりの事業者は(期限内なら)2割特例が有利になりやすい、というのが大まかな傾向です。以下で3方式を1つずつ確認します。

前提:法人の消費税申告の期限

課税事業者である法人は、課税期間終了の日の翌日から2か月以内に消費税の確定申告と納付を行います(消費税法45条)。事業年度を課税期間としている多くの法人では、法人税の確定申告と同じ「事業年度終了後2か月以内」が消費税の期限にもなります。

法人税の期限延長は消費税に自動連動しない

定時株主総会の関係で法人税の申告期限を1か月延長している場合でも、消費税の申告期限は別途の届出をしないと連動して延長されません。法人税と消費税で期限がずれることがあるため、延長を受けている法人は消費税側の取扱いも確認しておく必要があります。申告全体の流れは法人決算・申告の流れと期限を参照してください。

①本則課税(一般課税)— 実額で控除

本則課税(一般課税)は消費税の原則的な計算方法です。売上で預かった消費税から、仕入や経費で実際に支払った消費税(仕入税額控除)を差し引いた差額を納めます。

本則課税の納付額

納付額 = 売上で預かった消費税 − 仕入・経費で支払った消費税

実際に支払った消費税を集計して控除するため、課税仕入が多い年ほど納付額が抑えられ、有利になります。大きな設備投資をした年や、仕入原価の比率が高い事業では本則課税が向きます。一方で、すべての取引を消費税の区分(課税・非課税・不課税、軽減税率8%・標準税率10%)で正確に記帳する必要があり、経理の手間は3方式の中で最も大きくなります。

インボイス制度下では「支払先の登録」も控除の条件

本則課税で仕入税額控除を受けるには、原則として支払先が発行する適格請求書(インボイス)の保存が必要です。登録していない相手への支払いは控除できる消費税が制限される(経過措置あり)ため、本則課税では取引先のインボイス登録状況も納付額に影響します。会計ソフトで区分経理を自動化しておくと、この管理が大幅に楽になります。

②簡易課税 — みなし仕入率で計算

簡易課税は、実際に支払った消費税を集計せず、売上にかかった消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて控除額を計算する簡便な方式です。仕入側の集計が不要なため、経理の負担が大きく減ります。

簡易課税の納付額

納付額 = 売上の消費税 − (売上の消費税 × みなし仕入率)

= 売上の消費税 × (1 − みなし仕入率)

みなし仕入率は事業の種類で6区分に分かれます(国税庁タックスアンサー No.6509)。

出典:国税庁タックスアンサー No.6509(簡易課税制度の事業区分)。
事業区分みなし仕入率主な業種
第1種事業90%卸売業
第2種事業80%小売業、農林水産業(食用)
第3種事業70%製造業、建設業、鉱業、農林水産業(非食用)など
第4種事業60%飲食店業など他の区分に該当しない事業
第5種事業50%運輸通信業、金融・保険業、サービス業
第6種事業40%不動産業

簡易課税を使うには2つの条件がある

  • 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること(原則として前々事業年度の課税売上高で判定)。
  • 適用を受けたい課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していること。

また簡易課税は、いったん選ぶと原則2年間は本則課税に戻せない継続適用の縛りがあります。翌期に大きな設備投資を予定しているなど、本則課税の方が有利になる見込みがある場合は、選ぶタイミングを慎重に判断する必要があります。複数の事業を営んでいる場合は、みなし仕入率を事業ごとに加重平均する計算になり複雑になるため、税理士に確認するのが安全です。

③2割特例 — インボイス登録者の経過措置

2割特例は、インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった事業者の負担を軽くする経過措置です。納付額を「売上にかかる消費税額の20%」で計算できます(令和5年改正法附則51の2)。

2割特例の納付額

納付額 = 売上にかかる消費税額 × 20%

仕入の集計が不要で、みなし仕入率80%の簡易課税と同じ計算結果になるため、サービス業など仕入が少ない事業では特に有利になりやすい方式です。事前の届出も不要で、申告のときに選べます。

2割特例は期限が迫っている経過措置

2割特例を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が含まれる課税期間に限られます。あくまで「課税期間」単位の適用なので、たとえば令和8年9月30日が事業年度の途中に来る法人は、その日を含む課税期間(事業年度)まではまるごと2割特例を使え、その次の課税期間からは対象外になります。2026年6月時点では適用できる期間が終盤に入っており、対象でなくなった課税期間からは本則課税か簡易課税のいずれかを選ぶことになります。2割特例で申告してきた事業者は、期限後を見据えて簡易課税の選択届出を出しておくかを早めに検討しておくと、納税額が急に増える事態を避けやすくなります。なお2割特例は、基準期間の課税売上が1,000万円を超えた課税期間など、インボイス登録と無関係に課税事業者となる期間には使えません。自社が対象かどうかの判定は法人化と消費税もあわせて確認してください。

どれを選ぶか|判断軸の整理

「絶対にこれが得」という万能の方式はなく、その期の課税仕入の多さ・業種・将来の投資予定で有利な方式が変わります。タイプ別の目安を整理します。

あくまで一般的な傾向。実際の有利不利は自社の数字で試算して判断。
こんな会社・状況向きやすい方式理由
大きな設備投資をした年本則課税支払った消費税を実額で控除できる
仕入原価の比率が高い(卸・製造)本則課税または簡易(第1〜3種)仕入が多い/みなし仕入率が高い
仕入が少ないサービス業簡易課税(第5種)/2割特例実際の仕入が少なく実額控除が小さい
インボイス登録で課税になったばかり2割特例(期限内)売上税額の20%で簡単・有利になりやすい
経理の手間を減らしたい簡易課税・2割特例仕入側の集計が不要

迷ったら「届出のタイミング」に注意して試算を

最も注意したいのは届出のタイミングです。簡易課税は適用したい課税期間の前日までの届出が必要で、いったん選ぶと原則2年継続です。2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間までという期限があります。「来期はどの方式が有利か」を、設備投資の予定も含めて事前に試算しておかないと、有利な選択肢を逃すことがあります。自社の業種・売上・仕入で具体的にどれが得かは、税理士に試算してもらうのが確実です。

よくある質問(FAQ)

法人の消費税の申告期限はいつですか?

課税期間終了の日の翌日から2か月以内です(消費税法45条)。事業年度を課税期間としている法人なら、法人税の確定申告と同じ「事業年度終了後2か月以内」のタイミングで消費税も申告・納付します。なお法人税の申告期限を延長していても、消費税の申告期限は所定の届出をしないと連動して延長されない点に注意が必要です。

簡易課税はどんな会社が選べますか?

基準期間(原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下で、かつ適用を受けたい課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している法人が選べます。簡易課税は実際の仕入にかかった消費税を集計せず、売上にかかった消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて控除額を計算するため、経理が簡単になります。一方で、設備投資など仕入が多い年でも実額で控除できないため、本則課税より不利になる場合があります。

2割特例とは何ですか?まだ使えますか?

2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者の納税負担を軽くする経過措置で、納付額を「売上にかかる消費税額の20%」で計算できる制度です(令和5年改正法附則51の2)。適用できるのは令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が含まれる課税期間で、2026年6月時点では適用できる期間が終盤に入っています。期限を過ぎた後は、本則課税か簡易課税のいずれかを選ぶことになります。

本則・簡易・2割特例のどれが一番得ですか?

一概には言えず、業種と課税仕入の多さで変わります。目安として、課税仕入(経費の支払い)が多い・大きな設備投資がある年は実額で控除できる本則課税が有利になりやすく、仕入が少なくサービス業中心なら簡易課税やみなし仕入率の高い業種で有利になりやすい傾向があります。インボイス登録で課税になった事業者は、期限内であれば2割特例が最も簡単で有利になるケースが多いとされます。ただし簡易課税は一度選ぶと原則2年間継続するなどの縛りもあるため、選択前に税理士に試算してもらうのが安全です。

消費税の計算方式は毎年変えられますか?

本則課税と2割特例は、申告のたびに有利な方を選べます(2割特例は適用できる期間内に限ります)。一方、簡易課税は「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出して適用を始めると、原則として2年間は本則課税に戻せない継続適用の縛りがあります。そのため、翌期に大きな設備投資を予定している場合などは、簡易課税を選ぶタイミングを慎重に判断する必要があります。

出典・編集情報

このページは以下の法令・公的資料を一次ソースとして作成しています。内容は令和8年度(2026年)時点の標準的な制度に基づきます。

執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月3日

内容は令和8年度(2026年)の標準的な制度に基づく一般的な解説で、個別の事案への適用を保証するものではありません。簡易課税の事業区分の判定や複数事業の計算、2割特例の適用可否は個々の事業内容によって異なります。どの計算方式が有利かは自社の売上・仕入・業種で変わるため、具体的な選択は税務署または税理士にご確認ください。

本ツールは令和8年度(2026年)の税率・基準をもとに計算しています。最新の情報は各省庁のWebサイト等でご確認ください。