結論:最大2期免税。ただしインボイス登録で消える
法人成りの消費税は、よく「2年免税」と呼ばれます。これは正確には最大2期(最長で約2年)の納税義務が免除される、という意味です。新設法人には基準期間(原則2年前)がないため、要件を満たせば設立1期目・2期目は消費税を納めなくてよい、という原則があります(消費税法9条1項)。
ただし、この免税は無条件ではありません。資本金1,000万円以上、特定期間の条件への該当、そしてインボイス(適格請求書)登録のいずれかがあると、免税は適用されません。とくにインボイス登録をすると、本来免税のはずの期間でも課税事業者になります。
つまり結論は、取引相手が誰かで変わります。取引先が仕入税額控除のために適格請求書を求めるBtoB取引が中心ならインボイス登録が避けにくく、免税は事実上見込みにくい。一方、消費者向けのBtoCが中心なら登録しない選択で免税を活かせる余地がある。以下では、免税の仕組み・落とし穴・インボイス時代の現実・2割特例の期限を、一次ソースに沿って整理します。法人化のタイミング全体は法人化のタイミングもあわせて確認してください。
なぜ免税になるのか
消費税の納税義務は、基準期間(原則として2年前の事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます。基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら、その期は原則として免税事業者です。
ここで2つのポイントが効いてきます。1つ目は、新しく設立した法人には基準期間がないこと。設立1期目・2期目には、判定の基準になる「2年前の売上」が存在しないため、原則として免税になります。2つ目は、個人事業主と法人は税法上は別人格であること。個人時代に売上が1,000万円を超えていても、その実績は新設法人の判定には引き継がれません。
この2つが組み合わさることで、個人事業主が法人成りすると、消費税の納税義務をいったんリセットして免税期間を取り直せる場合があります。これが「法人成りで消費税が2年免税になる」と言われる仕組みの正体です。
「2年」ではなく「最大2期」が正確
設立1期目は、事業年度の取り方によって12か月に満たないことがあります。そのため免税期間は「ちょうど2年」ではなく「最大2期(最長で約2年)」と理解するのが正確です。なお、後述の特定期間の条件に該当すると、2期目は免税にならない場合があります。
3つの落とし穴(免税が消える条件)
新設法人が原則免税であっても、次の条件に該当すると免税にならず、設立当初または2期目から課税事業者になります。
| 落とし穴 | 課税になる条件 | 回避の考え方 |
|---|---|---|
| 資本金 | 設立時の資本金が1,000万円以上 | 資本金を1,000万円未満にする(999万円以下なら免税の余地) |
| 特定期間 | 特定期間の課税売上高が1,000万円超、かつ給与等支払額も1,000万円超 | どちらかが1,000万円以下なら回避可。1期目が7か月以下なら判定対象外 |
| インボイス登録 | 適格請求書発行事業者として登録した | 登録すると本来免税の期間も課税。BtoC中心なら登録しない選択も |
落とし穴①:資本金1,000万円以上
設立時の資本金が1,000万円以上の場合、基準期間がなくても設立1期目から課税事業者になります(消費税法12条の2第1項)。判定は「1,000万円以上」かどうかなので、1,000万円ちょうどは課税、999万円以下なら免税の余地があります。
落とし穴②:特定期間の課税売上高・給与
特定期間(原則として前事業年度開始から6か月)の課税売上高が1,000万円を超え、かつその期間の給与等支払額も1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります(消費税法9条の2)。「かつ」なので、課税売上高と給与のどちらかが1,000万円以下なら、この条件では課税になりません。また、1期目が7か月以下の場合は特定期間の判定対象外です。
落とし穴③:インボイス登録
適格請求書発行事業者としてインボイス登録をすると、本来免税のはずの期間でも課税事業者になります(消費税法57条の2)。BtoB取引が中心で取引先が適格請求書を求める場合、登録が事実上必要になり、免税メリットを使えなくなります。これが現在もっとも大きな落とし穴です。
特定新規設立法人について
このほかに「特定新規設立法人」という区分があり、課税売上高5億円超の者(その者と一定の関係にある法人を含めて判定)に50%超を支配されて設立された法人は、資本金が1,000万円未満でも設立当初から課税事業者になります(消費税法12条の3)。ただし、これは大規模なグループ会社の傘下で設立される法人などが対象で、個人事業主が単独で法人成りする通常のケースでは、通常は該当しません。
インボイス時代の現実:BtoB/BtoCで結論が変わる
インボイス制度が始まったことで、法人成りの免税メリットは「使える人」と「事実上使えない人」に分かれるようになりました。分かれ目は、取引相手がインボイス(適格請求書)を必要とするかどうかです。
取引相手による結論の違い
- BtoB中心(取引先が法人・課税事業者):取引先は仕入税額控除のために適格請求書を求める。インボイス登録が事実上必要になり、登録すると免税は消える。法人成りの免税メリットは見込みにくい
- BtoC中心(取引先が一般消費者):消費者は仕入税額控除をしないため、適格請求書を求められないことが多い。インボイス登録をしない選択をとれば、免税期間を活かせる余地がある
- 混在型:BtoBの比率・取引先の要望によって判断が分かれる。登録の有無で手取りがどう変わるかを試算してから決めるのが現実的
つまり、消費税を理由に法人化のタイミングを計るなら、まず自分の取引がBtoB中心かBtoC中心かを確認するのが出発点です。BtoB中心であれば免税は当てにせず、税率段差や社会的信用など別のメリットで法人化を判断するほうが現実的です。BtoC中心であれば、免税期間を活かすために登録の有無を慎重に検討する価値があります。
個人時代のインボイス登録番号は法人に引き継がれない
個人事業主としてインボイス登録していても、その登録番号は別人格である法人には引き継がれません。法人で登録する場合は、法人として改めて登録手続きを行います。登録するかどうかも含めて、法人成りのタイミングで取引構成を踏まえて判断することになります。
2割特例は令和8年9月30日まで=もうすぐ終了
インボイス登録を機に課税事業者になった事業者向けに、納付額を軽くする2割特例という経過措置があります。納付する消費税額を「売上にかかる消費税額×20%」で計算できる仕組みで、仕入や経費の集計をしなくても簡単に計算できるのが特徴です(令和5年改正法附則51条の2)。
ただし、2割特例は経過措置であり、適用できるのは令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間までです。2026年6月時点では終盤に差しかかっており、もうすぐ使えなくなります。法人成りでインボイス登録由来の課税事業者になった新設法人も、この期間内であれば対象になり得ます。なお、資本金1,000万円以上など、インボイス登録以外の理由で課税事業者になった新設法人は、2割特例の対象外です。
2割特例が終わった後の選択
2割特例の期間が終わった後は、原則課税(実際の仕入・経費にかかる消費税を差し引いて計算)か、簡易課税(売上にかかる消費税から「売上にかかる消費税×みなし仕入率」を差し引いて納付額を計算する方式)を選ぶことになります。簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下などの要件があり、事前の届出も必要です。どちらが有利かは取引構成・経費の状況で変わるため、特例終了の前に税理士へ相談して切り替え方針を決めておくのが安全です。
消費税をリセットする条件まとめ
ここまでの内容を整理すると、法人成りで消費税の免税期間を活かすには、次の4つの条件をすべて満たす必要があります。
消費税リセットの4条件チェックリスト
- ① 資本金が1,000万円未満(999万円以下)であること
- ② 特定期間の条件をクリア(課税売上高・給与のどちらかが1,000万円以下、または1期目が7か月以下)
- ③ インボイス登録をしていないこと(登録すると免税は消える)
- ④ 特定新規設立法人に該当しないこと(通常の単独法人成りなら該当しない)
この4条件のうち、現実的に判断を左右するのは③のインボイス登録です。BtoC中心であれば登録しない選択で免税を活かせますが、BtoB中心であれば登録が避けにくく、免税は事実上機能しにくくなります。資本金(①)と特定期間(②)は設計でコントロールしやすい一方、③は取引相手の都合に左右されます。
消費税は法人化のタイミングを決める要素のひとつですが、唯一の決め手ではありません。税率段差・社会保険・社会的信用なども含めた全体の判断は法人化のタイミングで整理しています。自分の数字での試算は個人vs法人 手取り比較シミュレーターを併用してください。会計ソフトを使うと、課税・免税の切り替えや消費税の集計を管理しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
法人成りすると消費税は本当に2年間免除されますか?
「2年免税」と呼ばれますが、正確には「最大2期(最長で約2年)」です。新設法人は基準期間(原則2年前)がないため、設立1期目・2期目は原則として消費税の納税義務が免除されます(消費税法9条1項)。ただし、資本金が1,000万円以上の場合や、特定期間の条件に該当する場合、インボイス登録をした場合などは免税になりません。事業年度の月数によって1期目が12か月に満たないこともあるため、期間は「最長で約2年」と理解するのが正確です。
なぜ個人事業から法人にすると消費税がリセットされるのですか?
消費税の納税義務は、基準期間(原則2年前)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます。新しく設立した法人には、その基準期間にあたる過去の売上が存在しません。さらに、個人事業主と法人は税法上は別人格として扱われるため、個人時代の売上は法人の判定に引き継がれません。この2つの理由から、要件を満たせば法人成りで消費税の免税期間を取り直せる場合があります。
資本金はいくらにすれば消費税が免税になりますか?
設立時の資本金が1,000万円以上だと、基準期間がなくても設立当初から消費税の課税事業者になります(消費税法12条の2第1項)。1,000万円ちょうどは課税、999万円以下なら免税の余地があります。消費税の免税を意識するなら、資本金は1,000万円未満に設定するのが基本です。ただし資本金は対外的な信用や許認可の要件にも関わるため、消費税だけで決めずに総合的に判断してください。
インボイス登録をしても消費税は免税のままですか?
いいえ。インボイス(適格請求書)の登録をすると、本来は免税だった期間でも課税事業者になります(消費税法57条の2)。取引先が仕入税額控除を行うために適格請求書を求めるBtoB取引が中心の場合、登録せざるを得ないことが多く、その場合は法人成りによる免税メリットは事実上見込みにくくなります。一方、消費者向け(BtoC)が中心で取引先がインボイスを求めない事業では、登録しない選択をとれば免税を活かせる余地があります。
2割特例は今後も使えますか?
2割特例は、インボイス登録を機に課税事業者になった事業者の納付額を「売上にかかる消費税額×20%」に軽減する経過措置です(令和5年改正法附則51条の2)。適用は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間までで、2026年6月時点では終盤に差しかかっています。期間が終わった後は、原則課税か簡易課税(売上にかかる消費税×みなし仕入率)を選ぶことになります。自分にどちらが有利かは、取引構成や経費の状況で変わるため税理士に確認してください。
出典・編集情報
このページは以下の国税庁タックスアンサー・法令を一次ソースとして作成しています。内容は令和8年度(2026年)時点の制度に基づきます。
- 国税庁タックスアンサー No.6531(新規開業者等の納税義務の免除)
- 国税庁タックスアンサー No.6501(納税義務の免除・基準期間)
- 国税庁タックスアンサー No.6125(特定期間による納税義務の判定)
- 国税庁タックスアンサー No.6498(適格請求書発行事業者の登録制度)
- 消費税法 第9条第1項(小規模事業者に係る納税義務の免除)・第9条の2(特定期間)・第12条の2(新設法人の特例)・第12条の3(特定新規設立法人)・第57条の2(適格請求書発行事業者の登録)
- 所得税法等の一部を改正する法律(令和5年改正法)附則第51条の2(2割特例・令和5年10月1日〜令和8年9月30日までの日の属する各課税期間)
執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月1日
内容は令和8年度(2026年)の現行法令に基づく一般的な解説で、個別の事案への適用を保証するものではありません。消費税の納税義務の判定は、資本金・特定期間・インボイス登録の有無・事業年度の月数など複数の要素で決まり、簡易課税のみなし仕入率や課税売上割合など本ページで扱わない論点も関係します。具体的な消費税の取扱い・届出のタイミングについては、税務署または税理士にご確認ください。