結論:赤字でも申告は必要、均等割はかかる
事業年度が赤字(欠損)で終わったとき、法人の決算・申告で押さえるべきことは大きく3つです。順に整理します。
| 論点 | 赤字の年の扱い | ポイント |
|---|---|---|
| 確定申告 | 赤字でも必要 | 期限内に出さないと青色取消しのリスク |
| 住民税の均等割 | 赤字でもかかる | 小規模法人で最低¥70,000(毎期) |
| 法人税・事業税 | 赤字なら原則ゼロ | 所得に連動するため赤字では発生しない |
| 欠損金(赤字) | 将来の黒字と相殺できる | 青色なら最大10年繰越・中小は繰戻還付も |
要点は、「赤字=何もしなくていい」ではないということです。所得に連動する法人税は赤字ならゼロですが、申告の義務と均等割の負担は残ります。そして申告をきちんと出しておけば、その赤字は将来の黒字と相殺できる「資産」になります。申告の流れと期限は法人決算・申告の流れと期限を、税金の全体像は法人にかかる税金の種類と実効税率をあわせてご覧ください。
①赤字でも確定申告は必要(無申告のリスク)
法人税の確定申告は、所得が出ているかどうかに関係なく、事業年度終了日の翌日から2か月以内に行う義務があります(法人税法74条)。赤字の年は所得に連動する法人税の納付額がゼロになるだけで、申告書の提出そのものは免除されません。
「納める税金がないなら申告しなくてもいいのでは」と考えてしまいがちですが、無申告のまま放置すると、次のような不利益が生じます。
赤字でも無申告だと損をする理由
- 青色申告の取消し:青色申告は、2事業年度連続で期限内に申告書を提出しないと承認が取り消される取扱いがあります。取り消されると、欠損金の繰越・繰戻還付・少額減価償却資産の特例といった特典がすべて使えなくなります。
- 欠損金を繰り越せない:赤字(欠損金)を将来の黒字と相殺するには、原則として連続して確定申告書を提出している必要があります。申告を飛ばすと、その赤字を将来の節税に使えなくなる可能性があります。
- 加算税・延滞税:申告期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税といった本来不要なペナルティが課されることがあります。
つまり赤字の年こそ、申告を出すことが「将来の黒字で取り返すための準備」になります。納税額ゼロでも、申告は必ず期限内に提出してください。
②赤字でもかかる税金 — 住民税の均等割
赤字の年でも必ず発生するのが、法人住民税の「均等割」です。均等割は所得(もうけ)に連動せず、「法人として存在していること」に対して定額でかかる税のため、利益がゼロでも納付しなければなりません。
赤字の年の住民税
法人税割(法人税額に連動)… 赤字なら ¥0
均等割(所得に無関係・定額)… 赤字でも 最低 ¥70,000〜
資本金等の額が1,000万円以下・従業員50人以下の小規模な法人の場合、標準税率で道府県民税¥20,000+市区町村民税¥50,000=年¥70,000が均等割の最低額です(地方税法52条・312条)。資本金等の額が大きくなると均等割も段階的に上がります。
休眠会社でも均等割はかかることがある
「赤字続きなので会社を実質的に動かしていない」というケースでも、解散や休眠の届出をしていなければ均等割の課税対象になり得ます。事業を止めるかどうかを検討する段階では、均等割の負担も判断材料に入れておくとよいでしょう。なお自治体によっては、一定の手続きをした休眠状態の法人について均等割の取扱いが異なる場合があるため、具体的には所在地の都道府県・市区町村に確認してください。
③赤字ならかからない税金 — 法人税・事業税
一方で、所得(もうけ)に連動する税金は、赤字なら原則かかりません。具体的には次のとおりです。
| 税金 | 赤字の年の扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 法人税 | 原則 ¥0 | 所得に対してかかるため赤字では発生しない |
| 地方法人税 | 原則 ¥0 | 法人税額に連動(法人税ゼロなら連動してゼロ) |
| 法人住民税(法人税割) | 原則 ¥0 | 法人税額に連動 |
| 法人事業税・特別法人事業税 | 原則 ¥0 | 所得に対してかかる(赤字では発生しない) |
| 法人住民税(均等割) | ¥70,000〜 | 所得に無関係の定額(赤字でもかかる) |
このため、赤字の年に実際に出ていくお金は住民税の均等割(小規模法人で最低¥70,000)が中心になります。各税の中身そのものは法人にかかる税金の種類と実効税率で整理しています。
④赤字を「資産」に変える — 欠損金の繰越・繰戻
赤字の年に申告をしておく最大の意味が、欠損金(税務上の赤字)を将来や前年に活かせる点です。青色申告をしていれば、主に2つの方法があります。
| 制度 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 欠損金の繰越控除 | 赤字を最大10年繰り越し、将来の黒字と相殺 | 青色申告法人(中小は100%控除) |
| 欠損金の繰戻還付 | 赤字を前年の黒字にぶつけ法人税の還付を受ける | 中小法人は適用可(大法人は原則不適用) |
欠損金の繰越控除は、ある年の赤字を翌年以後(最大10年)に繰り越し、黒字になった年の所得と相殺して法人税を抑える制度です(法人税法57条)。中小法人は繰越控除前の所得の100%まで相殺できます。設立初期の先行投資で出た赤字を、軌道に乗ってからの黒字とぶつけられるのが大きな利点です。
欠損金の繰戻還付は、前年が黒字だった場合に、今年の赤字を前年にさかのぼって相殺し、前年に納めた法人税の還付を受ける制度です(法人税法80条)。中小法人は適用できます。
繰戻還付は大法人には原則使えない(現行規定)
欠損金の繰戻還付は、資本金1億円以下の中小法人は適用できますが、それ以外の大法人については、租税特別措置法66条の12により令和8年3月31日までに終了する事業年度に生じた欠損金は原則として適用されません(清算中・解散・災害損失等の例外を除く)。これは期限付きの現行規定で、その後の取扱いは改正動向によります。1人法人・小規模な中小法人であれば中小法人として適用できると考えてよいですが、自社が該当するかは個別に確認してください。
制度の詳しい使い方は青色申告の記事へ
欠損金の繰越・繰戻の具体的な計算イメージや、青色申告そのものの特典(少額減価償却資産の特例など)は、法人の青色申告のメリットと申請でまとめて解説しています。これらの特典は青色申告の承認を受けていることが前提のため、設立後の承認申請期限とあわせて確認しておくと安心です。
⑤赤字が続くとき・債務超過のときに考えること
単年度の赤字なら欠損金の繰越で将来に活かせますが、赤字が複数年続く・負債が資産を上回る債務超過の状態になると、決算書を作るだけでは判断しきれない論点が増えます。
赤字が続くときに整理したい論点
- 役員報酬の見直し:赤字続きで役員報酬を会社が払いきれず、役員借入金(役員→会社の貸付)が膨らんでいないか。役員報酬の減額には期中変更の制約があります。
- 欠損金の繰越期限:繰り越した赤字は最大10年で期限が来ます。黒字化の見通しと繰越期限のバランスを見ておく必要があります。
- 金融機関の評価:債務超過は融資審査でマイナスに働きます。資本性の補強や事業計画の説明が必要になることがあります。
- 事業の継続・再生・撤退:休眠・解散も含めて、どの選択が損失を最小化するかは数字を見て判断する領域です。
役員報酬の減額や役員借入金の扱いは経営カテゴリで個別に解説していますが、赤字が続く局面の意思決定は、自社の数字を見ながら税理士と相談するのが最も確実です。
よくある質問(FAQ)
赤字なら法人の確定申告はしなくてもいいですか?
いいえ、赤字でも確定申告は必要です。法人税の確定申告は、所得(もうけ)が出ているかどうかに関係なく、事業年度終了日の翌日から2か月以内に行う義務があります(法人税法74条)。赤字なら所得に連動する法人税はゼロになりますが、「申告そのもの」は省略できません。申告をしないでいると、後述する青色申告の承認が取り消されたり、欠損金(赤字)を将来に繰り越せなくなったりと、かえって損をします。
赤字でも払わなければならない税金はありますか?
あります。法人住民税の「均等割」は、その年が赤字でも納付しなければなりません。資本金等が1,000万円以下・従業員50人以下の小規模な法人の場合、標準税率で年¥70,000(道府県民税¥20,000+市区町村民税¥50,000)が最低額です(地方税法52条・312条)。均等割は所得ではなく「法人として存在していること」に対してかかる税のため、利益が出ていない年でも毎期発生します。一方、所得に連動する法人税・地方法人税・法人住民税の法人税割・法人事業税は、赤字なら原則かかりません。
赤字を申告しておくと、どんなメリットがありますか?
青色申告をしていれば、その年の欠損金(税務上の赤字)を最大10年間繰り越し、将来黒字になった年の所得と相殺して法人税を抑えられます(法人税法57条)。資本金1億円以下の中小法人は、繰越控除前の所得の100%まで相殺できます。さらに、中小法人は前年に黒字がある場合、その赤字を前年の黒字にぶつけて法人税の還付を受ける「繰戻還付」も選べます(法人税法80条)。つまり申告をしておくこと自体が、赤字を将来の節税につなげる前提になります。制度の詳しい使い方は法人の青色申告の記事で解説しています。
無申告でいると何が起きますか?
期限内に申告をしないと、無申告加算税や延滞税といった本来不要なペナルティが課されることがあります。さらに、青色申告は2事業年度連続で期限内に申告しないと承認が取り消される取扱いがあり、取り消されると欠損金の繰越・繰戻還付や少額減価償却資産の特例といった青色の特典が使えなくなります。赤字で納める法人税がない年でも、「申告は出す」のが鉄則です。
赤字が続いて債務超過になりそうです。どうすればいいですか?
赤字が続き、負債が資産を上回る「債務超過」の状態になると、金融機関の評価や役員借入金の扱いなど、決算書づくりだけでは判断しきれない論点が増えてきます。欠損金の繰越をどう活かすか、役員報酬を下げるべきか、事業の継続・再生をどう描くかは、自社の数字を見ながら専門家と相談するのが安全です。税理士ドットコムなら相談・紹介料は無料で、赤字決算や債務超過の相談に強い税理士を探せます。
出典・編集情報
このページは以下の法令・公的資料を一次ソースとして作成しています。内容は令和8年度(2026年)時点の標準的な制度に基づきます。
- 法人税法 第74条(確定申告)/第57条(欠損金の繰越控除)/第80条(欠損金の繰戻しによる還付)
- 国税庁タックスアンサー No.5762(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除)
- 国税庁タックスアンサー No.5763(欠損金の繰戻しによる還付)
- 地方税法 第52条(道府県民税の均等割)・第312条(市町村民税の均等割)、租税特別措置法 第66条の12(大法人の繰戻還付の不適用)
執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月3日
内容は令和8年度(2026年)の標準的な制度に基づく一般的な解説で、個別の事案への適用を保証するものではありません。住民税の均等割の額や休眠法人の扱いは自治体により異なる場合があり、欠損金の繰戻還付の大法人不適用は本ページ記載時点の現行規定(期限付き)です。実際の申告・納税の判断は、自社の決算状況をもとに税務署または税理士にご確認ください。