結論:法人は実質ほぼ全員が青色を選ぶべき
結論から言うと、法人は実質的にほぼすべてのケースで青色申告を選ぶのが合理的です。理由はシンプルで、青色を選んでも手間(デメリット)はほとんど増えないのに、得られる特典が大きいからです。
個人事業では「青色は複式簿記の記帳が必要で大変」というデメリットがよく語られます。しかし法人は青色・白色にかかわらず複式簿記による記帳と帳簿書類の保存が前提のため、記帳の負担は青色を選んでも実質的に変わりません。つまり、白色を選んでも手間は減らないのに、青色なら使える特典が使えなくなるだけ、ということになります。
| 観点 | 青色申告 | 白色申告 |
|---|---|---|
| 欠損金(赤字)の繰越 | 最大10年(中小は100%控除) | 不可 |
| 欠損金の繰戻還付 | 中小法人は適用可 | 不可 |
| 少額減価償却の特例 | 中小企業者等は40万円未満を全額損金(要件あり) | 不可 |
| 記帳の手間 | 複式簿記・帳簿保存 | 法人は同様に求められる |
設立直後は先行投資で赤字になりやすく、その赤字を将来の黒字と相殺できる青色のメリットは立ち上げ期ほど効きます。設立後の各種届出とあわせて承認申請を出すのが定石です。設立直後の手続き全体は会社設立後にやることリストを、申告そのものの流れは法人決算・申告の流れと期限をあわせてご覧ください。
特典①欠損金の繰越控除(10年)
青色申告の最大の特典が欠損金の繰越控除です。ある事業年度に生じた欠損金(税務上の赤字)を、翌年度以後に繰り越して、将来黒字になった年の所得と相殺できます(法人税法57条)。繰り越せる期間は、平成30年4月以後に開始する事業年度で生じた欠損金について最大10年です。
欠損金の繰越控除のイメージ
1期目 … 赤字 200万円(欠損金として繰越)
2期目 … 黒字 300万円 → 繰越欠損金 200万円を相殺 → 課税所得 100万円
資本金1億円以下の中小法人は、その年の繰越控除前の所得の100%まで欠損金を控除できます(大法人に課される50%の控除制限の対象外)。設立初期に出た赤字を、軌道に乗ったあとの黒字とまるごとぶつけられるため、法人化初期にこそ効く特典です。
白色だと繰り越せない
白色申告の場合、この欠損金の繰越は原則として使えません。設立初年度に大きな赤字が出ても将来の黒字と相殺できず、黒字化した年に丸ごと課税されることになります。立ち上げ期の赤字を無駄にしないためにも、最初から青色を選んでおくことが重要です。
特典②欠損金の繰戻還付
欠損金の繰戻還付は、繰越控除とは逆方向の制度です。当期に欠損金が生じたとき、前期(黒字で法人税を納めた年度)にさかのぼって税額の還付を受けられる仕組みです(法人税法80条)。前期に黒字で納税し、今期に赤字へ転じたようなケースで、納めすぎていた分を取り戻せます。
この繰戻還付は、資本金1億円以下の中小法人は適用可能です。一方、大法人については租税特別措置法66条の12により、令和8年3月31日までに終了する事業年度に生じた欠損金は原則として繰戻還付の対象外とされています(中小法人等は除く)。
中小法人は使える・大法人は期限付きで制限あり
1人法人や設立直後の小規模な会社は、ほとんどが資本金1億円以下の中小法人にあたるため、繰戻還付を活用できます。大法人に対する原則不適用の措置は上記の期限付きの規定です。自社が適用できるか、繰越控除と繰戻還付のどちらが有利かは、所得の見通しによって変わるため、税理士に確認すると判断しやすくなります。
特典③少額減価償却資産の特例(40万円未満)
青色申告の中小企業者等は、一定額未満の減価償却資産を取得して事業に使った場合、その取得価額の全額をその年の損金(経費)にできます(租税特別措置法67条の5)。本来であればパソコンや備品は資産として計上し、複数年に分けて減価償却していくところを、まとめて一度に経費化できる特例です。
対象となる金額の上限は、令和8年4月1日以後に取得する資産から、30万円未満が40万円未満へ引き上げられます。たとえば取得価額が30万円以上40万円未満の備品は、改正前は1年での全額損金算入の対象外でしたが、改正後は対象に含まれ、取得した年に全額を経費にできるようになります。
年間の合計額には上限がある
この特例は、1事業年度に適用できる取得価額の合計額に上限が設けられています。年度内に多数の少額資産をまとめて購入するときは、合計額が上限を超えないか、超える分の扱いをどうするかを確認しておく必要があります。具体的な上限額や対象資産の範囲は、購入時に税理士へ確認すると確実です。
特典④推計課税の制限・更正理由の附記
青色申告には、金額面の特典以外に手続き上の保護もあります。代表的なのが、税務署が帳簿によらず所得を推計して課税する「推計課税」が原則として制限される点(法人税法147条)と、青色申告に対する更正(税務署による所得・税額の修正)の際に更正の理由が文書で示される(理由附記)点(法人税法130条)です。
きちんと帳簿を備えている前提が守られていれば、根拠が不明確なまま課税されにくくなり、仮に修正があっても理由の説明を受けられるため、納税者にとっての透明性・予測可能性が高まります。金額のメリットほど目立ちませんが、安心して事業を続けるうえで意味のある特典です。
注意:法人に「65万円の青色申告特別控除」はない
法人の青色申告でもっとも誤解されやすいのが、個人事業の「青色申告特別控除(10万円・55万円・65万円)」と同じ控除が法人にもある、という勘違いです。結論から言うと、法人税にこの控除は存在しません。
青色申告特別控除は、あくまで個人事業主の所得税の計算で所得金額から一定額を差し引ける制度で、所得税法57条の3に定められた個人専用の制度です。法人の青色申告は「所得から定額を控除して税金を減らす」制度ではなく、ここまで見てきた欠損金の繰越・繰戻還付や少額減価償却の特例といった、別の形での特典として設計されています。
「法人も青色なら65万円引ける」は誤り
インターネット上の解説では、個人事業と法人を混同して「法人も青色申告なら65万円控除が使える」と書かれていることがありますが、これは誤りです。法人化を機に青色申告のメリットを整理するときは、「控除額が増える制度」ではなく「赤字を活かす・経費化を前倒しする制度」という理解で捉えてください。
青色申告の承認申請|設立直後に出す
青色申告は自動的に適用されるわけではなく、「青色申告の承認申請書」を税務署へ提出して承認を受ける必要があります。新設法人の提出期限は、次のうちいずれか早い日の前日です(法人税法122条、国税庁タックスアンサーNo.5100)。
新設法人の青色申告 承認申請の期限
(A) 設立の日以後3か月を経過した日
(B) 最初の事業年度終了の日
提出期限 = (A) と (B) のいずれか早い日の前日
たとえば事業年度を1年とし、4月1日に設立した会社なら、設立後3か月を経過した日(7月1日)の前日にあたる6月30日が提出期限になります。提出が1日でも遅れると、その事業年度は青色申告ができず、特典を1期分まるごと逃してしまいます。設立後は法人設立届出書・給与支払事務所等の開設届出書など複数の届出が必要になるため、青色申告承認申請書もまとめて早めに提出しておくのが安全です。
申告そのものの流れと期限は法人決算・申告の流れと期限、自分で進めるか税理士に任せるかの判断は決算を自分でやる vs 税理士に頼む、法人にかかる税金の全体像は法人にかかる税金の種類と実効税率で確認できます。
よくある質問(FAQ)
法人の青色申告にデメリットはありますか?
ほとんどありません。よく「青色は帳簿付けが大変」と言われますが、法人は青色・白色にかかわらず複式簿記による記帳と帳簿書類の保存が求められるため、記帳の手間は青色を選んでも実質的に変わりません。一方で青色を選ばないと、欠損金(赤字)の繰越・繰戻還付や少額減価償却資産の特例といった特典が一切使えなくなります。手間がほぼ同じで特典だけ失うことになるため、法人は実質的にほぼすべてのケースで青色申告を選ぶのが合理的です。
法人でも65万円の青色申告特別控除は受けられますか?
受けられません。「青色申告特別控除(10万円・55万円・65万円)」は個人事業主(所得税)だけの制度で(所得税法57条の3)、法人税には同じ控除は存在しません。法人の青色申告は「所得から一定額を控除して税金を減らす」制度ではなく、欠損金の繰越・繰戻還付など別の形でメリットがある制度です。「法人も青色なら65万円引ける」という説明は誤りなので注意してください。
青色申告の承認申請はいつまでに出せばよいですか?
新設法人の場合は、設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日と、いずれか早い日の前日までに「青色申告の承認申請書」を税務署へ提出します(法人税法122条、国税庁タックスアンサーNo.5100)。たとえば事業年度が1年で4月1日設立なら、3か月を経過した日(7月1日)の前日にあたる6月30日が期限です。提出が遅れるとその事業年度は青色になれず特典を1期分逃すため、設立直後のほかの届出とあわせて早めに出しておくのが安全です。
設立初年度が赤字でも青色申告は意味がありますか?
むしろ赤字のときこそ効きます。青色申告であれば、その年に出た欠損金(赤字)を最大10年間繰り越し、将来黒字になった年の所得と相殺して法人税を抑えられます(法人税法57条)。資本金1億円以下の中小法人は、繰越控除前の所得の100%まで相殺できます。設立初期は先行投資で赤字になりやすいため、その赤字を将来の黒字とぶつけられる青色のメリットは、立ち上げ期ほど大きくなります。
少額減価償却資産の特例とは何ですか?
青色申告の中小企業者等が、一定額未満の減価償却資産を取得して事業に使った場合、その取得価額の全額をその年の損金(経費)にできる特例です(租税特別措置法67条の5)。本来は資産として複数年に分けて減価償却するものを、一度に経費化できます。対象となる金額の上限は、令和8年4月1日以後に取得する資産から30万円未満が40万円未満へ引き上げられます。年間の合計額には上限があるため、まとめて購入するときは適用可否を確認してください。
出典・編集情報
このページは以下の法令・公的資料を一次ソースとして作成しています。内容は令和8年度(2026年)時点の標準的な制度に基づきます。
- 国税庁タックスアンサー No.5100(新設法人の青色申告の承認申請書の提出期限)/法人税法122条
- 国税庁タックスアンサー No.5762(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除)/法人税法57条(繰越10年・中小法人は100%控除)
- 国税庁タックスアンサー No.5763(欠損金の繰戻しによる還付)/法人税法80条・租税特別措置法66条の12(大法人は令和8年3月31日までに終了する事業年度の欠損金は原則不適用)
- 租税特別措置法67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)。令和8年4月1日以後取得分は40万円未満に引き上げ
- 法人税法147条(推計による更正等の制限)・法人税法130条(青色申告書に係る更正の理由附記)
- 所得税法57条の3(青色申告特別控除=個人事業主の制度。法人税には存在しない)
執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月2日
内容は令和8年度(2026年)の標準的な制度に基づく一般的な解説で、個別の事案への適用を保証するものではありません。欠損金の繰戻還付の適用範囲や少額減価償却資産の特例の年間上限額・対象資産の範囲、青色申告の承認申請期限の起算日は、事業年度の設定や資本金規模によって変わります。実際の適用可否や手続きについては税務署または税理士にご確認ください。