結論:期中の減額が認められるのは限られた場合だけ
役員報酬を期の途中(事業年度の中途)で減額できるのは、原則として法令が定める改定事由に該当する場合に限られます。業績が悪いからといって自由に下げられるわけではなく、認められない減額をすると、その部分が損金不算入になってしまいます。
役員報酬の減額で押さえる3点
- 期中減額が認められるのは限られた場合 — 定時改定・臨時改定・業績悪化改定の3類型のうち、減額に使えるのは限定的(法人税法施行令69条1項1号)
- 「業績悪化改定」は減額専用 — 経営状況が著しく悪化した場合の減額に使える。ただし通達は「認められない例」を示す形で、必ずOKという基準はない(基本通達9-2-13)
- 該当しない減額は損金不算入 — 定期同額給与に該当しない部分が損金にできなくなる。さらに社会保険の随時改定にも波及する
この記事の位置づけ(改定・損金算入の全体は別記事)
役員報酬には「増額・減額」の両方を含む改定ルールがあり、その背景には「損金算入の3類型」という大きな枠組みがあります。それぞれの全体像は別の記事で解説しているため、本記事は「業績悪化などで報酬を下げたい」という減額の場面に絞って深掘りします。
関連記事との棲み分け
- 改定全体(増額も含む3パターン) → 役員報酬改定の3パターン
- 損金算入の全体像(3類型) → 役員報酬の損金算入
- 本記事 → 減額・業績悪化改定に特化
減額の視点で見た改定3類型
定期同額給与の改定が認められるのは、法人税法施行令69条1項1号が定める次の3類型です。減額に使えるかどうかという視点で整理します。
| 類型 | 根拠(施行令69条1項1号) | 動かせる方向 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| イ 定時改定 | イ | 増額・減額とも可 | 事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行う通常の改定 |
| ロ 臨時改定事由 | ロ | 増額・減額とも可 | 役員の職制上の地位の変更・職務内容の重大な変更などやむを得ない事情による改定 |
| ハ 業績悪化改定 | ハ | 減額のみ | 経営状況が著しく悪化したことなどによる改定 |
期首から3か月以内であれば、イの定時改定として増額も減額も比較的柔軟に行えます。問題になるのは、その期間を過ぎてから減額したいケースで、このとき頼ることになるのがハの業績悪化改定です。
業績悪化改定が認められる事由
業績悪化改定は、経営状況が著しく悪化したことなどにより役員報酬を減額する場合に限って認められる改定です。ここで重要なのは、法人税基本通達9-2-13が、認められる例を積極的に列挙するのではなく、認められない例を示す形になっている点です。
通達が「認められない」とする例
法人税基本通達9-2-13は、次のような場合は業績悪化改定事由に該当しないとしています。
- 一時的な資金繰りの都合により減額する場合
- 単に業績目標値に達しなかったことにより減額する場合
逆に、実務では「株主・取引銀行・従業員などとの関係上、報酬を減額せざるを得ない事情がある」「数値的な経営指標の悪化に伴い、第三者である利害関係者との関係上やむを得ない」「経営状況の悪化に対応した経営改善計画に基づき減額する」といった場合に、業績悪化改定事由に該当しうるとされています。ただし、通達に「○○なら必ずOK」という積極的な認容基準は示されていないため、最終的には個別の事実関係に基づく税務署の判断になります。減額の前に税理士へ相談するのが安全です。
該当しない期中減額は損金不算入になる
定期同額給与は、事業年度を通じて各支給時期の支給額が同額であることが前提です。認められる改定事由に当たらない期中減額をすると、定期同額給与に該当しない部分が生じ、その部分が損金不算入になります(法人税法34条1項1号、国税庁タックスアンサー No.5211)。
どの部分がいくら否認されるかは、減額の時期や前後の支給額によって変わります。国税庁のタックスアンサーにも一律の計算例は示されておらず、ケースごとに判断が必要なため、本記事では具体的な金額の試算は行いません。自社のケースでの影響額は、税理士に確認してください。
役員報酬を下げると社会保険はどうなるか
役員報酬(固定的な報酬)を減額すると、社会保険の標準報酬月額を期中に見直す随時改定(月額変更届)の対象になることがあります。随時改定が行われると、社会保険料の負担も変わります。
随時改定の主な前提
- 継続した3か月間の報酬を基準にする
- その3か月とも、各月の支払基礎日数が17日以上あること
- 改定後の標準報酬月額は、原則として4か月目から適用される
- 随時改定の根拠は健康保険法43条・厚生年金保険法23条
「2等級以上」「固定的賃金の変動」は実務運用の目安
随時改定の説明でよく出てくる「標準報酬月額に2等級以上の差が生じた」「固定的賃金に変動があった」という表現は、条文そのものの文言ではなく、日本年金機構などが実務上の判定要件として用いているものです。原則は2等級以上の差ですが、標準報酬月額の上限・下限付近では1等級の差でも対象になる場合があります。実際の適用は加入している保険者の取扱いによるため、月額変更届の要否は保険者や顧問の社会保険労務士・税理士に確認してください。社会保険料の試算は役員報酬 中期手取りシミュレーターで行えます。
役員報酬と社会保険の関係そのものは役員報酬と社会保険料で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
売上が落ちたので役員報酬を下げたいです。期の途中でも下げられますか?
期の途中で減額できるのは、原則として「業績悪化改定事由」に該当する場合などに限られます(法人税法施行令69条1項1号ハ)。一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったという理由では認められないとされています(法人税基本通達9-2-13)。経営状況の著しい悪化により株主・取引先・従業員との関係上やむを得ず減額する場合などが一般に挙げられますが、最終的には税務署の判断になるため、減額の前に税理士へ相談することをおすすめします。
業績悪化改定に「該当すれば必ずOK」という基準はありますか?
明確に「これならOK」という積極的な認容基準は、通達には示されていません。法人税基本通達9-2-13は、むしろ「一時的な資金繰りの都合」「単に業績目標値に達しなかったこと」など認められない例を挙げる形になっています。実務では、リストラ等の経営改善計画に基づく減額や、株主・取引銀行・従業員との関係上やむを得ない減額などが該当しうるとされますが、事実関係によって判断が分かれるため、断定はできません。
業績悪化改定に当たらないのに役員報酬を下げると、どうなりますか?
定期同額給与は事業年度を通じて毎月同額であることが前提のため、認められる改定事由に当たらない期中減額をすると、定期同額給与に該当しない部分が生じ、その部分が損金不算入になります(法人税法34条1項1号、国税庁タックスアンサー No.5211)。具体的にどの部分がいくら否認されるかは支給状況によって変わるため、税理士に確認しながら進めるのが安全です。
役員報酬を下げたら社会保険料も下がりますか?
役員報酬(固定的な報酬)を下げると、社会保険の標準報酬月額が見直される「随時改定」の対象になることがあります。継続した3か月間の報酬を基準に、各月の支払基礎日数が17日以上あることなどの要件を満たすと、4か月目から標準報酬月額が改定され、社会保険料が変わります(健康保険法43条・厚生年金保険法23条)。なお「2等級以上の差」や「固定的賃金の変動」といった目安は、条文そのものの文言ではなく実務運用上の基準として用いられているものです。
役員報酬の増額や、改定全体のルールはどこで分かりますか?
本記事は「減額」に絞っていますが、増額を含む改定の3パターン(定時改定・臨時改定・業績悪化改定)の全体像は役員報酬改定の3パターンで解説しています。また、そもそも役員報酬を損金にできる3類型の全体像は役員報酬の損金算入を参照してください。
出典・編集情報
このページは以下の公的機関・法令の公表情報を一次ソースとして作成しています。
- e-Gov 法人税法施行令(第69条 定期同額給与・3類型の改定事由)
- e-Gov 法人税法(第34条 役員給与の損金不算入)
- 国税庁 法人税基本通達9-2-13(業績悪化改定事由)
- 国税庁タックスアンサー No.5211(役員に対する給与・定期同額給与の改定)
- e-Gov 健康保険法(第43条 報酬月額の随時改定)
- e-Gov 厚生年金保険法(第23条 標準報酬月額の随時改定)
執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月1日
内容は令和8年度(2026年)の現行法令・通達に基づく一般的な解説で、個別の事案への適用を保証するものではありません。業績悪化改定事由への該当性は事実関係によって判断が分かれ、通達に明確な認容基準は示されていません。具体的な役員報酬の減額にあたっては税理士・社会保険労務士にご相談ください。