結論:一人社長でも旅費規程は有効で、日当は二重に効く
結論から言うと、一人社長・役員1名の会社でも旅費規程は有効です。法令に「役員が1名なら使えない」「従業員がいないと無効」といった除外規定はありません。出張という業務実態があり、規程に基づいて日当を支給していれば、その日当は会社の損金になり、同時に受け取る個人側では非課税になります。
これが旅費規程の二重メリットです。同じ金額を役員報酬(給与)で受け取ると、会社では損金になっても個人側では所得税・住民税・社会保険料の対象になります。一方、旅費規程に基づく日当は、会社で損金になりつつ個人では非課税のまま手元に残るため、給与で受け取る場合と比べて世帯の手取りが変わってきます。
一人社長の旅費規程で押さえる3点
- 一人社長でも有効 — 法令に除外規定はない。役員1名でも出張実態があれば日当を支給できる
- 会社は損金・個人は非課税 — この二重メリットが、同額を給与で受け取る場合との差を生む
- 実態と記録が前提 — 出張の実態・同業水準との整合・運用実績がないと、否認されてメリットが崩れる
ただし、この二重メリットは「規程さえ作れば自動で得をする」ものではありません。とくに支給先が社長自身に偏る一人社長の会社では、出張実態の記録や金額設定の妥当性が問われます。仕組みと否認されない作り方を順に整理します。規程の全文と記入例は 一人社長の出張旅費規程テンプレート に用意しています。
一人社長でも旅費規程は作れる・有効なのか
法令に除外規定はない
旅費規程に基づく日当が損金算入・非課税になる根拠は、役員や従業員の人数を要件にしていません。出張日当が個人側で非課税になるのは所得税法9条1項4号(職務を遂行するために必要な旅行の費用は非課税)が根拠で、ここに「役員が複数いること」「従業員がいること」といった条件はありません。会社側で損金になる根拠も、役員1名であることを排除していません。
したがって、一人社長の会社が「役員1名だから旅費規程は使えない」ということはありません。出張という業務の実態があり、規程に基づいて支給していれば、人数にかかわらず日当の取り扱いは成立します。
役員1名の会社で整える意味
一人社長の会社こそ、旅費規程を整える意味は大きい面があります。売上のほとんどが社長の働きによるため、出張も社長自身が行うことが多く、その都度の実費精算に加えて日当という形で非課税の手取りを上乗せできる余地があるからです。
一方で、支給する相手も決裁する相手も社長自身という構造上、第三者のチェックが働きにくいという弱点があります。だからこそ、後述する出張実態の記録・同業水準との整合を自分で担保しておくことが、否認を避けるうえで欠かせません。「一人社長だから自由にできる」ではなく「一人社長だからこそ証跡で説明できるようにしておく」という発想が必要です。
旅費規程の日当が節税になる仕組み(二重メリット)
会社側=損金算入できる
旅費規程に基づいて支給する出張日当は、会社の損金に算入できます。ここで重要なのは、役員に対する支給であっても、旅費規程に基づく日当は役員給与の規制(法人税法34条)の対象外として扱われる点です。役員給与は原則として定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3類型でないと損金になりませんが、旅費規程に基づく日当は法人税基本通達9-2-9でこれらとは別の旅費として扱われ、出張のつど支給しても損金算入できます。
個人側=非課税になる
受け取る社長個人の側では、出張日当は給与所得にならず非課税です(所得税法9条1項4号)。通常の役員報酬を増やすと所得税・住民税・社会保険料が増えますが、日当はこれらの課税対象に入りません。つまり会社では損金として利益を圧縮し、個人では非課税で受け取るという、課税の網にかからない通り道になります。
給与で受け取る場合との手取り差の理屈
同じ金額を「役員報酬の増額」で受け取る場合と「旅費規程の日当」で受け取る場合を並べると、効き方の違いがはっきりします。
| 役員報酬を増やして受け取る | 旅費規程の日当で受け取る | |
|---|---|---|
| 会社側 | 損金になる | 損金になる |
| 個人の所得税・住民税 | かかる(累進で増える) | かからない(非課税) |
| 社会保険料 | 増える(標準報酬に反映) | 実費弁償的な範囲なら含まれないとされる |
| 手元に残る額 | 税・社保を引いた後 | 原則そのまま |
会社の損金になる点は共通ですが、個人側で税・社保がかかるかどうかが分かれます。役員報酬は増やすほど個人の累進課税と社会保険料が重くなる一方、日当は非課税で手元に残るため、出張実態に見合う範囲であれば、世帯トータルの手取りを改善できる傾向があります。役員報酬そのものの最適化は 役員報酬で節税する方法 や 役員報酬の決め方 で扱っています。
あくまで「出張実態の範囲」が前提
この二重メリットは、出張という業務実態に見合った日当であることが大前提です。出張していないのに支給したり、実態に対して過大な金額を支給したりすると、日当としての扱いが否認され、給与課税・損金不算入に転じます。仕組みが有利だからこそ、実態を超えた使い方は逆効果になります。
日当をいくらに設定するか(金額でなく「決め方」)
日当の金額には、法令で定められた一律の基準額はありません。ネット上には「国内出張は1日いくら」といった目安が出回っていますが、それらは根拠の曖昧な二次情報であることが多く、自社の実態に合うとは限りません。ここでは具体的な金額ではなく、どう決めるかの枠組みを示します。
判断軸は「業務実態」と「同業・同規模との整合」
日当の妥当性を決める軸は2つです。1つは自社の業務実態——どれくらいの頻度で、どの程度の距離・拘束時間の出張があるのか。もう1つは同業・同規模の会社との整合——似た規模・業態の会社の水準と比べて著しく高すぎないか。この2つに照らして説明できる金額であれば、実費弁償の範囲として無理がありません。逆に、出張実態が乏しいのに高額を設定したり、規模に不釣り合いな水準にしたりすると、後述の否認リスクに直結します。
役職別・距離別・宿泊有無で区分するという考え方
金額を1つの定額で決めるのではなく、区分を設けて合理的に組み立てるのが実務的です。代表的な区分は次の3つです。
| 区分の軸 | 考え方 |
|---|---|
| 役職別 | 役職に応じた区分を設ける。一人社長でも将来の採用を見据えて区分を用意しておくと、社長への支給だけが突出していないことを示しやすい |
| 距離別 | 近距離・遠距離など移動距離で区分する。移動の負担に応じた合理的な差をつける |
| 宿泊の有無 | 日帰りと宿泊で区分する。宿泊を伴う出張は拘束時間が長いため、別の水準を設定する |
こうした区分を規程に明文化しておくと、「なぜこの金額なのか」を業務実態の言葉で説明できます。具体的な区分の書き方・記載例は 一人社長の出張旅費規程テンプレート に用意しているので、実際に規程を作る段階ではそちらを参照してください。
社会保険・消費税での扱い
社会保険:実費弁償的な日当は標準報酬月額に含まれないとされる
社会保険料は標準報酬月額をもとに計算されますが、実費弁償的な性格の出張日当は、この標準報酬月額に含まれないとされています。役員報酬を増やすと標準報酬月額が上がって社会保険料が増えますが、出張の実費を補う性格の日当はこれと切り分けて扱われる、という整理です。
ただし、これは日当が実費弁償の範囲にとどまっていることが前提です。実態を超えて過大な日当は、報酬の一部とみなされて標準報酬に算入される余地があります。社会保険料そのものの計算は 役員の社会保険 や 社会保険料シミュレーター で確認できます。
消費税:国内出張の日当は課税仕入れ、海外出張は対象外
消費税の扱いも給与とは異なります。国内出張の日当は、会社にとって課税仕入れになります。役員報酬(給与)は消費税の課税対象外ですが、旅費規程に基づく国内出張の日当は、出張という役務の対価に対する支出として課税仕入れに区分されます。
この課税仕入れは、出張日当として帳簿に記録・保存していれば、インボイス(適格請求書)の保存がなくても仕入税額控除の対象として扱われます(帳簿のみの保存で足りる旅費の特例)。一方、海外出張の日当は消費税の対象外です。国外での役務に対応する支出のため、課税仕入れにはなりません。
| 区分 | 消費税の扱い | インボイス |
|---|---|---|
| 国内出張の日当 | 課税仕入れ | 帳簿保存のみで可(保存不要) |
| 海外出張の日当 | 対象外(不課税) | — |
税務調査で否認されないための実務
日当の損金算入・非課税というメリットは、税務調査で否認されると一気に崩れます。否認されやすい会社には共通のパターンがあり、裏を返せば、それを避ければメリットを守れます。一人社長の会社で起きやすい順に整理します。
① 出張実態の記録がない
最も多いのが、出張した事実を示す記録が残っていないケースです。規程はあるのに、いつ・どこへ・何の目的で出張したかの記録がないと、日当の支給根拠を客観的に示せません。一人社長の会社では「自分が出張したのだから当然」と記録を省きがちですが、調査では第三者に説明できる記録の有無が問われます。
② 同業水準との著しい乖離
日当の金額が、業務実態や同業・同規模の会社の水準から著しくかけ離れていると、実費弁償の範囲を超えた給与・賞与とみなされます。「日当だから非課税」という形式だけ整えても、金額の妥当性が説明できなければ実質で判断されます。
③ 運用実態のないお手盛り
規程は立派でも、実際にはその規程どおりに運用していない、あるいは社長個人の私的な移動まで日当を出している、といった運用と実態の乖離も否認の典型です。とくに支給先が社長自身に偏る一人社長の会社は、お手盛り(実態を伴わない自己への利益供与)と見られやすいため、規程どおりに淡々と運用していることが重要です。
④ 一人社長が最低限残すべき証跡
以上を踏まえ、一人社長が最低限残しておきたい証跡は次のとおりです。
一人社長が最低限残すべき証跡
- 旅費規程そのもの — 機関決定(社長決裁)の日付入りで備え置く
- 出張の記録 — 日付・行先・目的・宿泊有無がわかる出張報告(出張旅費精算書など)
- 支給の記録 — 規程の区分に沿って計算・支給した事実がたどれる帳簿・伝票
- 移動を裏づける資料 — 交通機関の領収書・予約記録など、出張の実在を補強するもの
これらは特別なものではなく、規程どおりに運用していれば自然に残る記録です。逆に言えば、これらが残っていない=規程どおりに運用していない、と受け取られかねません。証跡の具体的なフォーマット(出張旅費精算書の様式など)は 旅費規程テンプレート 側で扱います。
よくある質問(FAQ)
一人社長でも旅費規程は本当に有効ですか?
有効です。旅費規程の有効性について、役員が1名であることや従業員がいないことを除外する規定は法令上ありません。出張という業務実態があり、規程に基づいて支給していれば、一人社長の会社でも日当は会社の損金になり、受け取る個人側では非課税になります。ただし「自分ひとりだから何でも通る」わけではなく、出張の実態・規程の整備・運用の実績がそろっていることが前提です。むしろ役員1名の会社は支給先が社長自身に偏るため、お手盛り(実態のない高額支給)と見られないよう、出張記録などの証跡を残すことがより重要になります。
日当に上限はありますか?いくらまで設定できますか?
法令で「いくらまで」という金額の上限が定められているわけではありません。ただし、業務の実態や同業・同規模の会社と比べて著しく高額な日当は、実費弁償の範囲を超えた給与・賞与とみなされ、損金算入や非課税の前提が崩れるおそれがあります。判断軸は「金額そのもの」ではなく「業務実態と社会通念に照らして妥当か」です。具体的な金額目安は会社の事業内容・出張頻度・移動距離などで変わるため、自社の実態に合わせて、役職別・距離別・宿泊有無といった区分で合理的に決めることが現実的です。妥当な水準の線引きに迷う場合は税理士に確認するのが安全です。
旅費規程は税務署に届出が必要ですか?
届出は不要です。旅費規程は社内規程であり、作成や変更にあたって税務署への事前届出・認可は求められていません。会社の機関決定(一人社長なら社長の決裁)で整備し、社内に備え置けば足ります。ただし「届出が要らない=何もしなくてよい」ではありません。届出がない分、規程の存在・支給日・出張実態を自社の記録として残しておくことが、調査の際に支給根拠を示す唯一の手段になります。整備のしかたと記載例は別記事の旅費規程テンプレートで具体的に確認できます。
日当は全社員一律で設定しないとダメですか?
「全社員一律」が法令上の要件として定められているわけではありません。実務では、役職や出張の態様(移動距離・宿泊の有無など)に応じて区分を設けるのが一般的です。重要なのは、社長だけが突出して優遇される設計になっていないか、区分の根拠が業務実態に照らして説明できるかという整合性です。一人社長で従業員がいない場合でも、将来の採用を見据えて合理的な区分を規程に書いておくと、社長への支給だけが恣意的でないことを示しやすくなります。区分の作り方は旅費規程テンプレートで例示しています。
日当を高く設定しすぎるとどうなりますか?
実費弁償の範囲を超えると判断された部分は、日当としての損金算入・非課税が認められず、役員給与(定期同額・事前確定届出のいずれにも当たらない臨時の支給)として損金不算入になったり、個人側で給与課税されたりするおそれがあります。つまり「節税のつもりが、否認されて逆に税負担が増える」結果になりかねません。高さの妥当性は業務実態と同業水準との整合で判断されるため、相場感のない高額設定は避け、自社の出張実態に見合う水準にとどめることが大切です。
規程の全文・各条文の記入例・出張旅費精算書の様式は 一人社長の出張旅費規程テンプレート にまとめています。
旅費規程のテンプレートと記入例はこちら
ここまでで、一人社長でも旅費規程が有効であること、日当が会社の損金・個人の非課税という二重メリットを生むこと、そして否認されないための実務を確認しました。実際に規程を作る段階では、条文の文面・役職別/距離別/宿泊有無の区分の書き方・出張旅費精算書の様式が必要になります。
それらは 一人社長の出張旅費規程テンプレート に、そのまま自社に合わせて使える形で用意しています。仕組みと注意点を押さえたうえで、テンプレートで規程を整えるのが効率的です。
出典・編集情報
このページは以下の公的機関・法令の公表情報を一次ソースとして作成しています。
- 国税庁タックスアンサー No.2508(職務を遂行するために旅行をした場合の旅費)
- 国税庁タックスアンサー No.5211(役員に対する給与)
- 国税庁タックスアンサー No.6459(出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い)
- e-Gov 所得税法(第9条 非課税所得)
執筆: 法人化ナビ編集部 / 最終更新: 2026年6月8日
内容は令和8年度(2026年)の現行法令に基づく一般的な解説で、個別の事案への適用を保証するものではありません。旅費規程に基づく日当の損金算入・非課税は、出張という業務の実態があり、金額が実費弁償の範囲にとどまっていることが前提です。社会保険上の取り扱いは実態に応じた個別判断となる場合があります。具体的な日当の水準や否認リスクの判断にあたっては税理士にご相談ください。